痩せる、きれいになるを謳うダイエット食品と、健康になると書かれた健康食品では、売上を生む確率は大きく異なります。
きれいは身体の健康からと頭では分かっていながらも、正論である健康では興ざめ。もちろん「これで私は30kg痩せました」と謳われた商品が売れる確率が圧倒的に高い。
HerBESTのハウスマネジメサービスの基本設計にも、お掃除はゴミをなくして整理整頓だけでなく、快適な環境づくりのために菌などの目に見えないものからお客様の身体を守るという衛生思想が含まれています。
ミャンマーで活躍されるビジネスリーダーの方に、健康を損ねることなく、ハイパフォーマンスで走ってもらいたいからです。しかし、”衛生知識をもった掃除”だけを価値で謳っても、「大切だよね」で終わり売れることはありませんね笑
予防は大事なんだけど、目に見にくく、なかなか人を動かす力をもっていません。今回はお掃除にとって重要だけど見えにくい「衛生(ハイジーン)」のことから、世界で始まっているハイジーン戦争について考えてみました。
衛生とは、生をまもること。日本は60年間で平均寿命を30歳延ばした衛生活動
衛生とは、字のごとく「生を護(まも)る」こと。転じて、健康を守り健康の増進を意味しています。
世界保健機関(WHO)の定義では、公衆衛生を、
「組織された地域社会の努力を通して、疾病を予防し、生命を延長し、身体的、精神的機能の増進をはかる科学であり技術である」
と定義しています。清潔的な環境だけではなく、健康のための栄養改善など幅広く、衛生という考え方は使われています。
もともと日本にはない言葉で、「hygiene(ハイジーン)」というドイツ語の和訳から来ています。明治時代に伝えられ、特に日本では富国強兵を図るために、屈強な国民を作るために公衆衛生を導入したことで、欧米とは少し異なる考え方で広まったと言われています。
とはいえ戦後の荒れ果てた中で、衛生環境を整える活動が地道に行われ、60年間あまりで日本人の平均寿命を30歳延ばした事にも大きく貢献しています。
その後現代では、医療費削減に向けて未病対策を大きく進めており、本来的な衛生に立ち返っているのではないかと思います。マーケットとしての機会もあり、医学だけではなく、未病・予防医療の観点で幅広い分野で衛生という考え方が活かされています。
そんな衛生ですが、なぜこの地球上に生まれたのでしょうか、
病原菌に気づいた人、すごくないですか?
いまでは真逆の位置づけですが、狩猟・農耕社会においては、シャーマン・祈祷、宗教が衛生的な役割を担っていました。しかし今で言うところの非科学的なものばかりではありません。
およそ5,000年前のエジプトで防腐と殺菌の技術があったことがミイラで証明されていますし、紀元前1500年の中国では2,000種類の薬があり,紀元前753年のローマには上下水道が整備されていました。衛生概念があったゆえに、大きな国家が安定して一定期間維持されたのではないかと思います。
その後、社会制度・公衆衛生としての始まりは、19世紀ヨーロッパ。
産業革命後、トイレや下水のインフラが整っていない都市に人口が急激に集中し、生活環境は悪化。結核・梅毒・天然痘などの伝染病や感染症の蔓延などを改善させるために、公衆衛生は生まれました。産業革命を推し進めていくには、都市に住む労働者を守る経済的合理性があったからです。
人々の生命を脅かしているのが”菌”であることに気づいた人がいて、上下水をきれいにしたり、薬を作ったり、と人々を守ってきた歴史の積み重ねによって今があります。ちなみに2018年の世界都市の衛生ランキングの1位はホノルルで、日本は神戸が8位にランクイン。
まだまだ未成熟なミャンマーのハイジーン現在地
ミャンマーには「衛生」をバックグランドに設計されたものは、まだ多くはありません。
事実として例えば、
・病院はゴミだらけ。入院病棟のベッドは廊下にもずらりと並べられ、ウイルスを媒介する蚊がたくさん。家のほうが清潔。
・手術後の血がべっとりついた手術着を着たまま病棟内を歩き回るお医者さん。
・屋台の周りは生ゴミで溢れ、飲食店の台ふきんはテーブルも床も一緒。
・テーブルもガラスもなんでも、窓ガラス用の中性洗剤で拭き掃除。
・道路にゴミは捨て放題で、野犬と鳩だらけ。
・糖質だらけのレストラン。
などなど、サバイブ能力は上がりそうですが、生命の延長を社会的に促進させる施策は見える形になっていません。
政府としても放っておいてるわけではなく、例えば病院の衛生環境の改善を進めたいと考え、海外のNGOや国からの支援を受けて入るものの、予算等の問題で現場レベルでは進められていないというのが現状です。
ガンジーの努力むなしく、衛生観念は自然発生的には育まれないのか、広まらないのか
ミャンマーもまだまだ未成熟ですが、いまや世界3位の経済大国であるインドの都市は、衛生ランキング下位に3つもランクイン。231位中、228位ニューデリー、227位コルカタ、223位ムンバイ・・・
今でも5億人のインド人(人口の約40%)が屋外で排泄していて、このような劣悪な衛生環境に起因する病気や生産性の低下による経済損失は、年間数千億円に上ると言われています。経済は成長したが、人が住む環境自体は日に日に悪化しています。ガンジーがとても努力したが・・・
何を価値として認め、対価を払うのか。お金の優先順位は今その瞬間に。
誰もがスマートフォンを持ち、エド・シーランを聞いているインドの5億人の人々は、女性であればレイプの危険性が有るにも関わらず、トイレを屋外で排泄しています。
衛生観念がない地域に、衛生が自然発生的に広まる都市はこれまでにないし、これからもないのかもしれない。空気中に目に見えない菌がいるとは知らず、病原菌を撒き散らしているとも気付かず、自分の未来の健康を守る支払いは、今この瞬間のYoutube視聴の通信料に負けていく。
自分たちのスタッフにも、菌は菌でも良いも悪いもあるのに、菌=毒だと簡易化しないと伝えられない歯がゆさがあります。
伝える方の言語能力の低さもあるけれども、日本でハイジーンを衛生と訳してから約150年、少しずつ少しずつ衛生環境が改善されていった歴史を考えると劇的な改善は難しいのかもしれません。私が生まれて30年ほどですが、30年間でも社会の衛生知識はかなりアップデートされたと思います。
もはや延命・健康だけではない、世界で始まった”ハイジーン戦争”
日本の衛生は国際的な支援、日本政府、NGO団体等の啓蒙と実行努力によってなされました。シンガポールやルワンダはゴミを捨てるのを法律的に厳しく激しく禁止したことで、清潔な街が実現できています。
大きな損失を出しているにも関わらず、解決策ではなく予防策では人を動かすことはできません。他国のビジネスのカモにされていることはいざ知らず、衛生環境が悪い地域は、世界からの支援で集められた抗生物質によって、抗生物質が効かない新たなスーパー耐性菌を作り出し、さらなる医薬品ビジネスを生み出しています。
そしてNASAの宇宙ステーションの大きな問題のひとつは、カビ問題。抗生物質の普及によって、欧米人はカビの耐性を失っているためです。(祖先に抗生物質を投与されていない東南アジアの人々は、カビに対しての耐性があります。)SF映画ではあまり描かれませんが、地球外で安定的に暮らしていくためにも、衛生的な環境は死活問題なのです。
世界のマネーは土地や石油、水などの資源戦争から、目には見えない”清潔な空気の確保”に移行中。人類は、新しく生まれ続け、人々の脅威となっている菌との共存、戦いに直面し、研究・ビジネス合戦が行われています。
衛生への投資は切り捨てられ、富めるものだけが衛生的な環境を享受できるものになるのか。気候的にもカビが発生しやすいミャンマーは、研究を進め世界の救世主となるのか。それとも大国たちのカモになっていくのか。
そんなことを考えたヤンゴンの昼下がりでした。